FC2ブログ
 

 イイギリ・飯桐…キリの無い話

飯桐


 先月29日の日記に閻魔堂の、その翌日には愴浪泉園のイイギリのことを書いた。今朝、国分寺駅まで歩くついでに閻魔堂を覗いてみた。そこには見事に変身したイイギリが聳えていた。葉を落とした枝は真紅の実に覆われ、まるでXmas Eveに合わせて巨大ツリーを立てたようだ。
 今日も樹上には十数羽のヒヨドリが群れている。ふっと一つの疑問が涌いた。あれから1ヶ月近く経っているのに赤い実はちっとも減った様子がない。なぜだろう。そういえばイイギリに集まるのはヒヨドリばかりで他の野鳥はあまり見たことがない。試しに地上に房ごと落ちている実を噛んでみた。不味い。色、形からガマズミやナナカマドのようなやや酸味のある爽やかな味を想像していたが大違いだった。それに硬い。そう、ちょうどナンテンの実のような味だった。これで他の鳥が寄りつかない訳が解った。とするとヒヨドリはよほどの味痴ということだろうか。
 
 数年前の冬、名古屋に住むTさんから1枚の写真が送られてきた。彼は教え子のご主人で趣味で鉄砲猟をする。正確に言うと、していた。殺生に嫌気がさしたとかで今は止めている。その日、猪を追って谷際まで来ると、対岸に一箇所火のように真っ赤なものが見える。渓を渡って確かめると燃えるように紅い実を付けた巨木が聳えていた。見たことの無い木、何だろうと写真に撮って私宛に送ってきた。図鑑で調べてイイギリであることが判った。実はそれまで私はイイギリを見たことがなかった。故郷の天竜河畔には無い樹木だった。図鑑によると九州、四国など西日本を中心に分布しているということだから、東日本で分布したのはここ数十年のことかもしれない。イイギリは飯桐と書くが分類学的には桐の仲間ではない。キリがゴマノハグサ科に属するキリに対し、イイギリはイイギリ科イイギリ属という独自の地位を主張している。幹がやや白っぽくて桐に似ており、木材としてもゲタなど広く利用されることからキリの名を頂戴してしまったらしい。
 昔、この木の葉でご飯を包んだことから飯桐という名が付いたという。万葉集の有間皇子の歌に「家なれば笥に盛る飯を草枕 旅にしあれば椎の葉に盛る」とある。椎の葉に較べればイイギリのほうが飯を包むのに適しているとは思うが、古歌の中に飯桐を詠ったものは見つからない。学名の Idesia はオランダの植物学者の名前からとったというからオランダが原産地かと思ったら、世界の熱帯を中心に89属800種も分布しているというので驚いた。近年になって日本に渡来したものか、在来種だが違う名前で呼ばれていたのか私は知らない。ご存知の方がいたら教えていただきたい。
 
 私が桐の一種と思っていたように、古代の人たちも桐として扱ったのだろうか。万葉集には、大伴旅人が藤原房前に送った琴に添えた桐の歌があるが、この琴は梧桐、すなわち青桐でつくられたとある。桐に因んで思い浮かぶのは、源氏物語の最初に現れる光源氏の母、桐壺の更衣。身分はさほど高くないが、時の帝(桐壺帝)に寵愛されたため、女御たちに妬まれ、早世した美女である。庭に桐が植えられている桐壺とよばれた淑景舎(しげいしゃ)を控え場所としていたため桐壺の更衣と呼ばれた。が、その桐がどんな種類かは定かでない。枕草子には「桐の木の花、紫に咲きたるは、なおをかしきに、葉のひろごりざまぞ、うたてこちたけれど、異木(ことぎ)どもとひとしう言うべきにもあらず」とある。紫の花というのだからイイギリでないことは明らかだ。芭蕉の句「わが宿のさびしさおもへ桐一葉」の桐も種類は不明。桐一葉落ちて天下の秋を知る」という成句は、漢の書「淮南子(えなんじ)」の説山訓の中の「見一葉落、而知歳之将暮(一葉の落つるを見て、歳のまさに暮れんとするを知る)」に由来するのだが、何の桐かは判らない。

 桐という漢字がいつごろから用いられているかというと、奈良時代初期に編纂された『出雲風土記』には赤桐、白桐が、『万葉集 巻五』には梧桐が、記されている。しかし、これらが今日のどの桐に当たるかについては定説が無い。万葉集のおよそ150年後に成立した『新撰字鏡』には、梧と桐の字が挙げられている。『新撰字鏡』の約20年後に成立した『本草和名』には、岐利之岐として、青桐、梧桐、白桐、綱桐の名が記録されると共に、それぞれに注釈が付けられている。その記載には青桐には茎皮青旡子という注釈から今日のアオギリであることが、白桐には三月花紫という記載から桐と名のつく樹木で花が紫のものはキリのみであることから、白桐はキリであることが判る。いずれにしてもイイギリ(飯桐)に比定できるような記述はどこにも見つからない。結局、キリの詮索はキリが無い野で、この辺でウチキリとしたい。

       (写真は閻魔堂のイイギリ) 
スポンサーサイト








※ スパム対策の為、暫くの間コメントは承認制にさせていただいております。
  コメントを頂いてから表示までにお時間をいただく場合がございますが、
  何卒ご理解くださいますよう、お願い致します。(管理人)

by 杜の小径  at 01:06 |  日記 |  comment (0)  |   |  page top ↑
プロフィール

杜の小径

Author:杜の小径

杜のMENU
最近の記事
最近のコメント
月別アーカイブ
カテゴリー
カウンター