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季節のことばー鰻と鮎―

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浦和小島屋


あゆ


 とりわけ鰻が好きというわけではないが、ときどき鰻が食いたくなる。しかし、いわゆる通ではないし美食家でもないから、竹葉亭でなくちゃあ尾花でなくちゃあと有名店に拘ることはない。むかし八丁堀にYという天然鰻を食わせる店があった。天然ものでは最高と言われる利根川の下り鰻を使っているとかで、鰻好きの間では結構名の知れた店だった。
店の目立つ場所に店主敬白という手書きのビラが貼ってあり、「当店では天然鰻を使用しているので、時どき肝吸いの中に釣り針が入っていることがあります。ご注意下さい』と書いてあった。まさかと思ったら本当に入っていた。親指ほどの銀色に光る針を捌く途中で見落とすわけがない。明らかに「仕込み」と感じたので二度と行かなかった。3年ほど経っての仄聞では、客足が落ちて閉店したという。こういう有名店もあるので、あまり名声に惑わされないほうがいいようだ。
かと言って鰻ならどこでもいいというわけではない。名店でも自分の口に合わないのは駄目、無名の店でも口に合えば何回もリピートする。私の場合は蒸しの利いた柔らかなものより、少し焦げ目のついたくらいの硬目がいい。タレは甘味を抑えたさっぱりしたのが好きだ。そうした意味で、いちばん記憶に残っているのが浦和の小島屋。車でないと行けない辺鄙な場所にぽつんと建っている。十数年むかし、『民暴の鷹』を執筆中に地元のY弁護士に連れられてきたのが最初。筏(いかだ)と称する巨大な蒲焼に度肝を抜かれた。径20cmはある大皿からはみ出しそうになっている。蒸さずに焼いたものだが、焦げ目のついた身が歯応えがあって美味しい。中央線の沿線に住むようになってからは阿佐ヶ谷の「阿づ満や」へ行くことが多い。北口の路地に在る小さな間口の店だが味は本物だ。時間がない時は吉祥寺駅ビル地下の「宮川」に寄る。味は㊕というわけではないが、地の利がいいので吉祥寺へ出たときは時どき立ち寄る。

    無為に過ぎし ひと日の終はり 鰻食ふ (杜)

 とつぜん甘味に話題が変わるが、吉祥寺に「小笹」という羊羹の店がある。1坪ほどの狭い店だが、ここの羊羹を買うのは至難のこと。噂では朝暗いうちから並んで整理券を貰い、10時の開店に再び訪れて買うのだそうだ。で、代わりに最中をかうのだが、いつ行っても10人ほどが列をつくっている。私自身は甘味に興味はないが進物用に時どき求めている。この店の裏側一帯が俗にハモニカ横丁という処で、カスバのように入り組んだ小路に沿って100軒ほどの店が犇めいている。居酒屋、食堂、雑貨、薬品、衣料品など殆どの商品が、この迷路の中で間に合う。
 その一つにKという鮮魚店がある。貝類が豊富で、時としてドジョウなどの川魚を置いてあるときもある。今日の目玉は初鮎。かち割氷に檜の葉を敷いて、その上に今にも泳ぎ出しそうな若鮎が並べられている。初夏の魚と言えば初鰹と決まっているが山育ちの私には鮎こそ夏の到来を知らせる魚である。10尾を氷ごと包んでもらう。
祖父が釣り好きで6月になると入札で買ったのだろうか、岩に名前を記した専用の瀬をもっていた。鮎は珪藻という岩に付く苔を食べるので、自分のテリトリーに侵入する魚を激しく攻撃する習性がある。それを利用して囮鮎に針を付けて放すと、それに体当たりした鮎が針にかかる。これを「友釣り」という。鮎はいろいろな食べ方があるがいちばん美味しいのは「背ごし」である。節を抜いた青竹に酢を入れておき、釣れたばかりの鮎を頭から放り込む。それを骨ごと筒切りにして食する。また、鮎の僅かな内臓を塩蔵したものは「ウルカ」という珍味になる。鮎は香魚という別称があるくらいで内臓に独特の香味と旨味がある。これは鮎の成魚が珪藻類しか食べないためで、養殖ものではこうした食べ方は出来ない。天然鮎に限られる食味である。
 今日の鮎は養殖の可能性もあるので、内臓は全て捨てることにする。5尾はヒレに化粧塩をしてからオーブンで焼く。残りは塩を振らないで飴色になるまでこんがりと焼いておく。これは後日、鮎飯にでもしてみよう。
 
    鮎の腹割けば無色の血の流る (杜)
    
    鮎焼かる瀬を行くときの形して(杜)

         
           (写真:上から小島屋、小島屋の蒲焼、若鮎)
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by 杜の小径  at 21:46 |  日記 |  comment (2)  |  trackback (0)  |  page top ↑
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