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季節のことばー蛍―

ホタル


蛍1


蛍3


 日本人と蛍は縁が深い。私たちの世代だと「蛍来い」という童唄が耳朶を離れない。

    ほう ほう 蛍 来い
    あっちの水は苦いぞ
    こつちの水は甘いぞ
    ほう ほう 蛍 来い

 「蛍」という唱歌も懐かしい。これを聞くと脳裏に故郷の自然が甦ってくる。
   
   蛍の宿は川ばた柳
   柳おぼろに夕闇よせて
   川の目高が夢みるころは
   ほ、ほ、蛍が灯をともす

 中学に入るころ、勉学に励むことを蛍雪の功と言い、『蛍雪時代』という雑誌もあった。もっとも、この成句の出典は中国の歴史書『晋書』の「車胤伝」である。晋国に車胤と孫康という貧しい青年がいた。灯油を買う金が無いので車胤は蛍を袋に入れ、孫康は窓辺に雪を積んで、その明りで勉強したという。

 蛍は儚い命と恋の象徴として古今の文芸に星の数、いや蛍の数ほど登場している。俳句ではもちろん夏の季語で、散る蛍、朝(昼、夕)蛍、雨蛍、蛍合戦、呼ぶ蛍、蛍狩、蛍篭、蛍舟、更に語呂を合わせた「ほうたる」などバリエーションが多い。記憶に残る秀句を拾うと忽ち十指に余る

   立てかけて蛍這ひけり草箒(漱石)
   親ひとり子ひとり蛍光けり(万太郎)
   一本の草をかくれが昼蛍(狩行)
   蛍火や疾風のごとき母の脈(波郷)
   死に急ぐなと蛍に水吹いて(真砂女)
   蛍火やこぼりと音す水の渦(青邨)
   蛍籠明日をよき日と星揺るる(誓子)

 和歌では恋のツールとして蛍が活躍する。『新古今集』に載る寂蓮法師の歌…

   思ひあれば袖に蛍をつつみても言わばやものを問う人もなし
 
 この歌には伏線があって、ある歌を本歌取りしている。桂皇女に仕える女官が皇女の許に通ってくる式部卿宮に恋をして、着物の袖に蛍を包んで次の一首を添えて気持ちを打ち明けた。

   つつめども隠れぬものは夏虫の身よりあまれる思ひなりけり

  この本歌を知らないと寂蓮の歌を完全に理解することは難しい。もう一つ和泉式部の蛍歌を紹介しておこう。                                                 

   物おもへば沢の蛍も我が身よりあくがれいづる魂(たま)かとぞみる

 夫の愛を疑った和泉式部が貴船神社の神に蛍に託して悩みを打ち明けた歌である。これに対し貴船の神は、滝のように切れ目なく思い悩むのはやめなさいと、次の返歌を下さったという。

   奥山にたぎりておつる滝つ瀬のたまちるばかり物な思ひそ
 
 紫式部はよほど蛍が好きだったようで、『源氏物語』の中に沢山の蛍の歌を挿入している。
 
   声はせで身をのみこがす螢こそ言ふよりまさる思ひなるらめ(螢兵部卿宮の歌)
   なく声も聞こえぬ虫の思ひだに人の消つにはきゆるものかは(同上)
   夜を知る螢を見ても悲しきは時ぞともなき思ひなりけり(光源氏の歌)

  自由詩では白秋が故郷・柳川の蛍を歌った「水路」を挙げておこう。

   ほうつほうつと蛍が飛ぶ…………
   しとやかな柳河の水路を、
   定紋つけた古い提灯が、ぼんやりと、
   その船の芝居もどりの家族を眠らす。
 
   ほうつほうつと蛍が飛ぶ……
   あるかない月の夜に鳴く虫のこゑ、
   向ひあつた白壁の薄あかりに、
   何かしら燐のようなおそれがむせぶ。
 
   ほうつほうつと蛍が飛ぶ…………
   とある家のひたひたと光る汲水場に
   ほんのり立った女の素肌
   何を見てゐるのか、ふけた夜のこころに。
 
   漢詩にも蛍は度々登場する。次は白居易の『長恨歌』の一節。

   夕殿蛍飛思悄然 夕殿ニ蛍飛ビ思イ悄然タリ 
   秋燈挑尽未能眠  秋燈挑(カカゲ)尽シ未ダ眠ル能ワズ

 最後に、お恥ずかしいが私の五行詩も披露させていただく。
   
   千の火に
   千の命
   燃え尽きて
   闇に戻る
   蛍の谷

   指を這う
   小さな命
   死に急ぐなよと
   空へ放つ 
   蛍

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