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浮草の下の世界―批評ということ

ホテイアオイ1 ウキクサ
 
   浮き草に それぞれの茎 それぞれの花(杜詩夫)

   萍(うきくさ)の下の世界を測りかね( 〃 )


 陽が落ちてから、国分寺跡近くの蕎麦屋へ出掛ける。このところ酷暑を避けて早朝にばかり歩いているので、「お鷹の道」辺りの風物が妙に新鮮に感じる。この時季は香りの強い花が少ないので、薄明のなかでは咲いている花々に気付くことも無く通り過ぎていた。樹間に見え隠れする野鳥たちの声も思い做しか、つれなく聞こえる。勿論こっちの僻目なんだが…。ご無沙汰していた酒場に、久し振りに顔を出したようだななどと思いながら歩く。

 池畔に、ホテイアオイが咲いていた。葉柄の根元がぷっくり膨らんでいるのを布袋様のお腹に見立てて名付けられたものだが、その姿態もなかなかユーモラスでいい。薄紫の花は、古刹跡の雰囲気にぴったりだ。ところが、この花はウォーター・ヒヤシンスの別名があるように日本の固有種ではなく、帰化植物である。…でも、古今集などには浮草を詠んだ歌があるよ、と仰りたいでしょ。

  侘びぬれば 身を浮き草の 根をたえて 誘ふ水あらば いなんとぞ思ふ(小野小町)
  水の面に 生ふる皐月の 浮草の うき事あれや 根をたえてこね(凡河内躬恒)
  浮き草の うへは茂れる 淵なれや 深き心を 知る人のなき (詠み人知らず)

 調べれば、未だまだあると思うが,ここで詠われた浮草は無性繁殖で殆ど花は咲かない。稀に咲いても極めて小さくて、とても鑑賞に耐えられるようなものではない。古歌では浮き草そのものを詠うというより、「憂き」の掛詞として遣われるケースが多かった。冒頭の一行詩で、浮草に異なる二つの表記を遣ったのは、このためであった。(写真:左から帰化植物のホテイアオイ、日本固有種のウキクサ)

 浮草を見ての帰途、私はぼんやりと文芸作品について考えていた。それが小説であろうが詩であろうが、作品と謂う花の下には作家それぞれの想いが秘められている。その茎や花を大雑把に掴むことはできても、正確に理解することは難しい。「浮草の下の世界は測りかねる」というのが正直な気持ちだ。測りかねることは口に出せない。だから私はよほど懇望されたとき以外、他人の作品に批評の筆を執ったことは無い。
 ただ、短詩形の様ざまなギャザリングに出席するようになってから、積極的に批評をするようになった。それが結社であれ同好会のようなものであれ、相互研磨の研究の場であるから、相互批評は出席者としての義務だと考えているからである。とは言っても他人の作品を批評するほどシンドイことはない。私の場合、自分の作品を産み出すより肉体的にも精神的にも遥かに重労働である。一首を解り兼ねて夜を徹することだってある。それでも批評するは、他の参加者も同じように真剣に私の作品を読んでくれていると信じるからである。これは一般論であるが、批評を挨拶と勘違いしている人が多い。作意が不明でも文法的な誤りがあっても、そんなことはどうでもいいい。当たり障りの無い褒め言葉を並べることが批評だと思っているようだ。だから真面な批評に出逢うと、まるで悪口でも言われたように委縮してしまう。好んで租(アラ)探しをしたり悪口を言う人が居るだろうか。そんな人が居ない。それは座禅を組みながら警策を憎しみの鞭と感じるようなものだ。
 また、他のブログを蝶のように飛び回って饒舌に語りながら、ギャザリングでは一語も発しない人が居る。これも残念だ。見栄を捨て虚心になれば、もっと坦懐に話し合える筈だ。私はいま、批評について絶望しつつある。
               
    ドクダミ
                  
 自分でも美味しいと思い、人にも薦めてきたSの蕎麦が、今日は水っぽくて旨くなかった。暑さで眠れぬ夜が続いたせいか、どうも思考が僻みっぽくなっていけない。自分だけが正しくて他人が間違っている―そんな考え方だけはしまいと思っていても、苦労して辿り着いた蕎麦屋の味が期待を裏切ると、つい愚痴も出る。振られた女に未練を残すようなものかな。ちょっと違うかもしれない。
一里塚の地蔵さまの叢に、どくだみがいっぱい咲いていた。匂いが強く名前も毒々しいが、僕は好きな花だ。楚々と真剣に生きている様子がいい。

   夕暮れて 信じたき白 どくだみ咲く(杜詩夫)
  
  
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by 杜の小径  at 05:12 |  日記 |  comment (4)  |   |  page top ↑
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