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思い出の六日町

石工の道


 昨夜の落語会で晩くなり珍しく朝10時過ぎに入浴。冬至というので柚子を浮かべてゆっくり入ろうと思っていると電話が鳴った。
「Sですけど、ご無沙汰しました。お元気?」
「こないだ、ご主人に電話しといたんだけど…」
 先日、着物の仕立について相談したいからとご主人に伝言しておいたが、連絡が無かった。そのことを聞いたのだが、こっちの言うことは無視された。
「あらっ、入浴中なの? 声にエコーかかってるわよ」
「うん、後で電話する」
「いいわよ、すぐ済むから。テレビ電話じゃないから見えないわよ。わたし、田舎に行ってたの…」
「十日町?」
「違う、4日多いわよ。ム・イ・カ・マ・チ…六日町。しょっちゅう間違えないでよ。それでね、田舎の土産を届けたいの、1時間後に伺うわね」
 こっちの都合もろくに聞かないで、さっさと電話を切ってしまった。雨の予報で慌てて取り込んだままの洗濯物が頭をかすめる。風呂を途中できりあげ、とりあえず山積みされた洗濯物を寝室に押し込む。コーヒー・ドリッパーのスイッチを入れる。
 
 Sさんは着物の仕立をお願いしている方である。ここへ越してきて直ぐからだから、かれこれ6年の付き合いになる。バス停二つ分と家が近いこともあって、着付から着物の収納なども相談に乗ってもらっているる。そのうちにご主人とも親しくなって、夏には釣果の鮎を届けてもらったりしている。市内にある大きなゴルフ場に地主とかで、釣りとゴルフに明け暮れる結構なご身分のようだ。奥さんのほうは縫製の他に着物のモデルをしているが、ゲートボール公式審判員という変わった肩書もっていて各地を飛び回っている。

 ぴったり1時間後にSさんがやって来た。せっかく部屋を片付けたのに玄関先に土産をドッサッと置くと、まだ2箇所回らなければならないのよと、さっさと帰っていった。車でご主人が待っているようだった。
 お土産はお米、野沢菜漬、味噌漬、酒粕。お米はもちろん魚沼産コシヒカリ、野沢菜漬は信州などでも作られるが六日町のものは遥かに大きい。茎の太さは親指ほどもあり葉先まで1㍍近くもある。ハリハリとした歯触りと仄かな酸味が特徴。味噌漬は越後味噌に漬けられていて味噌も食べられる。酒粕は「酒の実」と名付けられた銘酒八海山のもので粕汁に最適である。

 ゼンギ、いや前置きの長いのが私の悪いクセである。Sさんのお土産に触発されて六日町に関わる思い出を書くつもりが脱線してしまった。Sさんからフキの薹、ワラビ、ゼンマイ、アケビなどを戴いているうちに六日町が好きになり、これまでに2回訪れたことがある。最初は4年前の正月。温泉に浸りながら百名山の八海山、越後駒ケ岳、巻機山、さらにそれに連なる金城山、坂戸山など雪山を眺めた気分は最高だった。この坂戸山は全体が上杉謙信の養子となった上杉景勝の居城址で、春に訪ねたときには頂上付近・桃の木平まで登山道両脇をカタクリの大群生が続いていた。夜は越後の名峰の名を冠した銘酒・八海山を清流魚野川で獲れた岩魚の炭火焼を肴に飲む。仲居さんが歌ってくれた「お六甚句」も忘れられない。

  「♪吹雪く窓なりゃ 届かぬ想い 心細かな 縮のあやを
          織って着せたや  織って着せたや主が肩♪」
 
 この「お六」とは、直江兼続の少年時の名・与六に因んだものと言われる。
 
 六日町にはいろいろな思い出があるが、2度の旅でいちばん印象に残るのは「石工の道」である。畦地バス停を起点に三国川ダムを回り野中バス停まで約3時間の行程は目立った観光地もなく、知る人の少ない地味な場所である。江戸時代の末期、魚沼郡五十沢舞台村(現南魚六日町字舞台)に太良兵衛という石工がいた。作品はなんと3千点。この「石工の道」では路傍にそっと佇む太良兵衛作の石仏や供養塔などに出合うことができる。彼のの作品は絵画のサインのように、前面左下に△|マークが刻まれている。太良兵衛について詳しく知りたい方は『太良兵衛の石仏』(曽根原駿吉郎著、講談社刊)を読まれるといい。著者の曽根原さんは村人にさえ忘れ去られていた太良兵衛に再び光を当てた人で、この本は太良兵衛に関する唯一の参考文献である。この道を歩きながら私は夢うつつの中に太良兵衛が石を削る槌音を聞いた。当時の日記には次の作品が記されている。思えば、この一篇の詩を置くために随分回り道をしたことである。以って駄文の見本として戴きたい。

   峡の奥に      ■峡=かい
   槌の音響き
   墓になるまで
   石
   削られる

      (写真は思い出の六日町「石工の道」)

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by 杜の小径  at 01:32 |  日記 |  comment (1)  |   |  page top ↑
Comments

知りませんでした

 私は隣駅の塩沢で生まれ六日町へ何度も行ったことがあるのに、石工の道のことは知りませんでした。今度帰ったら、ぜひ訪ねてみます。
by 高橋 千絵 2007/12/23 23:37  URL [ 編集 ]
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