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「ぶあいそう」との出逢い

    武相荘門 武相荘母屋   武相荘新聞入れ

 男ありて、武蔵鶴川の里を行く。道ばたに咲く白椿の美しさに魅せられ、思わず一枝を手折る。それを咎める尼との間に美に関わる問答が続く。名を問われた尼は椿の精と答えて椿の藪に消える。…やがて藪の中から現れた老女(実は白洲正子の化身)が老いて死ぬ運命(さだめ)を花の命に託して「序の舞」を舞う。―これは白洲正子没後十年を追悼して東大名誉教授多田富雄さんが書いた新作能のあらすじである。彼女の祥月命日に当る12月26日に宝生能楽堂で上演される。シテを梅若六郎、ワキを宝生欣哉が勤め、真野響子も出演する。図らずもこれに招待されたので、多少でも彼女のことを知っておこうと晩秋の一日、町田市鶴川の旧白洲邸・武相荘(ぶあいそう)を訪ねてみた。ここは白洲次郎・正子夫妻が茅葺き農家を買い取って半世紀を過ごした家である。白洲次郎は昭和15年に開戦必至とみて、家族の安全のためにこの家を手に入れた。この経緯について正子は『白洲正子自伝』の仲で次のように書いている。

「その頃、タチさん〔幼少より正子についていたお手伝いさん〕の親戚におまわりさんがいて、南多摩郡鶴川村の駐在所につとめていたが、彼は至って好人物で、秋は栗拾いに、春は苺(いちご)狩と筍(たけのこ)掘りに、子供たちを誘ってくれた。万葉集の東歌(あずまうた)にも詠まれている「多摩の横山」の丘陵ぞいに、茅葺(かやぶ)きの農家が点在するのどかな農村で、戦争が近いことなどどこにも感じられない。おまわりさんは、もし郊外に家を探しているならぜひ鶴川村へ来るようにとしきりに誘った。」
 
 調度品はさすがに贅を尽くしたものだが、長屋門、藁葺きの屋根、天井の梁、柿の木などに当時の農家の面影がそのまま残されている。そのほか民具を使った調度品、例えば古い臼を利用した新聞受などもあり、それが武相荘の魅力になっている。母屋を見終わったところで昼食。正子さんが生前に贔屓にしていた青山「レ・クリスタリーヌ」に特注した弁当を戴く。

 実を言うと白洲次郎については、よく知らない。終戦直後、吉田茂の外交顧問として講和条約の締結に随行したり、新憲法の制定に尽力した金持ちのぼんぼんくらいの知識しか無い。正子夫人は女性で初めて能を舞ったことで知られているし、エッセイストとして『能面』、『かくれ里』(いずれも読売文学賞)をはじめ多くの著作があり、それらは『『白洲正子全集』全14巻に纏められている。有体に言えば白洲次郎夫人と言うより、白洲正子の旦那が白洲次郎といった感じである。

 屋敷の裏山が回遊式の庭園になっていて、鈴鹿峠の石柱が立つ処から裏山への登ると、紅葉や野の花の中に銘石や野仏が置かれていて、夫妻の趣味の広さ、深さが窺がわれる。、

 武相荘の名は、武蔵と相模の境に位置することから、無愛想をもじって名づけた。邸内の扁額は近衛内閣の司法大臣だった風見章の筆によるもの。食糧難時代は邸内で畑仕事もやっていたようで、納屋に小型トラクターなどの農具や雪カンジキ、炭俵などが残っていた。そんな時代でもウイスキーは欠かさなかったらしく、オールド・スコッチの樽がで~んと据えられていた。

     (写真:武相荘の長屋門、藁屋根の母屋、臼を利用した新聞受)
   
 




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by 杜の小径  at 02:21 |  日記 |  comment (2)  |   |  page top ↑
Comments

No title

 白洲正子さんが大好きです。と言っても、そんなに
知っているわけではありません。以前友から借りた
『美しくなるにつれて若くなる』を読んでからすっかり
ファンになりました。いつか武相荘に行ってみたいと
思います。どうも有難うございました。
by 加納加代子 2008/11/07 13:38  URL [ 編集 ]

No title

 加代子さん、しばらく。お元気でしたか。

 あなたも正子さんが好きですか。最近、女性の
間で頓に人気が出ているようですね。正子さんの
生き方は、女性にとって一つの理想なのかもしれ
ませんね。

 詩は作っていらっしゃいますか。「杜のギャラリー」
は、いろいろ妨害があって再開できないでにいます
が、もう少し待って下さいね。
 
by 杜詩夫 2008/11/07 17:55  URL [ 編集 ]
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