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ぼくの成人式

              久根 010

 今日は「成人の日」。昔流に言えば元服の日である。以前は元服が旧暦1月15日の小正月に行われていたのに因んで1月15日と定められていた。現行の1月第二月曜日に変更されたのは2000年からである。今日は各市町村で新しく20歳になった青年を集めて、成人式が行われた。全国で133万人と言われる新成人たちは、どんな想いで成人式に臨んだのであろう。当然ながら私にも成人式の思い出がある。

 この写真は20歳のころの私。書斎の欄間から、いつも私を見下ろしている。啄木を気取ったキザなポーズをしているが、心は挫折感でずたずたに切り裂かれていた。この春、私は大学受験に失敗した。最難間と言われた大学だったから周囲の人たちは、さして話題にもしなかったが私自身は挫折感に打ち拉がれていた。自室に閉じ籠った私を自殺でもするのではと心配したのか、父が故郷の村長に手紙を書いて勝手に小学校教員の口を決めてしまった。

 私の故郷は天竜河畔の佐久間村(現在は浜松市天竜区佐久間)。小学3年の途中で転校したから実に10年ぶりの帰郷だった。私は村内の久根鉱山の在る地区の学校に配属された。
全児童数88名の小さな小学校である。父兄の殆どは鉱夫で、急峻な斜面に数棟ずつ連なった長屋に住んでいた。私には、その最下段、郵便局と医局に挟まれた地区では比較的高級な住宅が充てられた。静かな環境でという父の想いとは裏腹に不眠症に罹ってしまい、天竜川の水音が耳について眠られぬ日々が続いた。そんな中で迎えた成人式だった。幼馴染みも10年ぶりでは名前も顔も殆ど思い出せない。とうとう誰とも言葉を交わすことなく会場を後にした。暗くて辛い成人式の思い出である。

 そんな私を救ってくれたのは、純真な子どもたちだった。今考えれば乱暴な話だが、教室の教壇を取り払い、黒板を児童の背丈まで下げて落書は自由とした。時間割はやめ教科書も殆ど使わず、晴れている限り児童を森に連れ出して国語、理科、算数、社会などの教科を総合的に教えた。そんな私に校長は「基礎学力だけはつけてやって下さい」と言っただけで、黙って見守っていてくれた。
 
 1年後、私はリベンジを果たして志望校に合格した。暗い気持ちで赴任した大久根小学校を、後ろ髪を引かれる思いで後にした。たった1年間であったが、20歳の私に忘れ難い思い出をくれた1年となった。当時の子どもたちとは今も交流が続いている。昨年秋、浜松市の舘山寺温泉で開かれた同級会では、還暦を過ぎた子ども ? たちが「センセイ」を合唱してくれ、私は不覚にも涙を見せてしまった。

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by 杜の小径  at 01:10 |  日記 |  comment (6)  |   |  page top ↑
Comments

息子に読み聞かせました

 成人式にちなんだ素晴らしいお話しを、有難うございました。
 息子が来年20際になりますので、さっそく読み聞かせました。
 寒い日が続きます。先生のご健康をお祈りしています。
by 中村紫水 2009/01/13 13:55  URL [ 編集 ]

No title

 小学校の頃の、たった1年の師弟関係が何十年も続くなんて信じられません。
 こんな素敵な先生に巡り会えた教え子さんは幸せですね。羨ましいです。
by 星野智恵理 2009/01/13 22:31  URL [ 編集 ]

No title

写真がよく見えませんが、20歳の頃私は何を考えていただろうかとふと思ってしまいました。東京に来て(東京の郊外ですけど)、慣れない天気に戸惑って、大学生活にようやく慣れてきた頃だったと思います。希望に溢れていたとはいいがたく、将来に何が起こるのか、人生を切り開いてゆけるのかなどとあれこれ考えていました。成人式なんていうお祭り?は自分とは無縁でした。 何が幸いとなるか、その逆となるかは分からないものですね。今でも続いているという師弟関係にあたたかさを感じました。
by ユナ 2009/01/14 17:53  URL [ 編集 ]

No title

 紫水さん、暫くです。以前お会いした勇樹君が、来年は成人式ですか。
早いものですね。春には御地へ行く予定です。お目にかかるのを楽しみに
しています。
by t杜詩夫 2009/01/15 05:40  URL [ 編集 ]

No title

 智恵理さん、おはようございmす。お正月はいかがでしたか。
今年も頑張りましょうね。

 師弟というより家族みたいな関係で、私自身は当たり前のことと
思っていましたが、最近は人さまから言われて、よくも続いたなあと
思うようになりました。(笑)
 
by t杜詩夫 2009/01/15 06:02  URL [ 編集 ]

No title

 ユナさん、明けましておめでとうございます。お元気で正月を迎えられましたか。

 久根鉱山は閉山となり、職員住宅の並んでいた斜面はジャングル状態になっています。
現在は危険だというので地区一帯が鉄条網で囲まれ立ち入ることも出来ません。つまり、
此処で生まれ育った人たちには地上から故郷が消えてしまったのです。
子どもたちにとっては、思い出の中にしか故郷はありません。だから、私のような者でも
忘れずに先生、先生と慕ってくれるのでしょう。嬉しいことです。
by t杜詩夫 2009/01/15 06:14  URL [ 編集 ]
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