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矢車の音

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   おろされて仄かに温し紙の鯉(杜)
   
   矢車や時に哀しき音を立て(杜)
 
 カラカラと懐かしい音を聞いた。長いあいだ留守にしていたので風を入れようと、昨夜は衣桁部屋を兼ねた寝室の窓を開けておいた。外に出てみると、隣のヴェランダに鯉幟が飾られてあり、カラカラというのはその矢車の音だった。私が入居した当時は若いお嬢さんがお父さんと二人で住んでいたが、いつの間にかお父さんは居なくなっていた。ある朝、赤ちゃんの泣き声がするので、あゝ、結婚されたんだなと思った。お子さんは、どうやら男の子だったらしい。

 鯉幟には、ほろ苦い思い出がある。小学校3年のとき先生から、鯉幟について説明してくださいと、とつぜん指名された。五月五日の男の子の節句に飾る紙で作った鯉の形の幟ですといったようなことを答えたと思う。私が答え終ると同時に、クラス中が笑い声に包まれた。私には、なぜ笑われたのか判らなかった。が、その笑いに軽蔑と憐憫が含まれていることは敏感に感じ取って、私は恥ずかしさで顔が真っ赤になった。先生が、「そうです。鯉は元気のいい魚だから男の子が丈夫に育つように鯉の幟をかざるんですよね。今は布で作っていますが、昔は紙で作ったのですよ」とフォローしてくれたが、私はずっと下を向いたままでいた。そのころ私は天竜河畔の田舎から都会の小学校へ転校したばかりで、布で作った鯉幟など、見たことも聞いたこともなかった。担任の名前さえ思い出せないのに、なぜかこのシーンだけは鮮やかに心に焼き付いている。

 そういえば来週の日曜日は母の日である。結婚して間もないころ、妻が母の家を訪ねてカーネーションの花束を贈ったことがある。まあまあ、有難うよと母は笑顔で受けて取ったあと一瞬の間をおいて「でも、こんな綺麗なお花は年寄りには勿体無いがね」と、ちょっと照れたような表情を見せた。田舎育ちの母が庭で故郷の山野草を育てているのを知っていたが、そのことは妻には告げなかった。その母も、妻もとうの昔に逝ってしまった。

   母の日や野花の好きな母なりき(杜)
   
   カーネーションあまた抱くも幸薄く(杜)

 ところで、今日からまた暫く留守にします。当分、ブログも休むことになります。訪れる人も居ない辺境のサイトですが、一応ひと言お断りしておきます。
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by 杜の小径  at 06:16 |  日記 |  comment (2)  |   |  page top ↑
Comments

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こちらこそご無沙汰しています。すみません。余裕が無くてこちらへ伺う機会が減りました。お元気そうで何よりです。
by ユナ 2009/05/05 22:45  URL [ 編集 ]

No title

 ユナさん、こんにちは。
 実は先月24日から慶応病院の人間ドックに入っています。特にどこかが悪いわけではありませんが、半年に1回体調のチェックをしています。

 今日は郵便物のチェックや植木の灌水のために一日帰宅です。日帰りなので、夕食までには帰院しなくてはなりません。

 来週末までには退院できると思います。
by 杜詩夫 2009/05/10 09:10  URL [ 編集 ]
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