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多佳子忌

  橋本多佳子
    雨しとど花みな白し多佳子の忌(杜)

5月29日は橋本多佳子の忌日である。はじめは大した関心も無かったが、好きな俳人杉田久女の弟子ということで読んでいるうちに、その叙情的、主情的な瑞々しい句風にだんだん惹かれていった。
 彼女自身は東京の生まれだが、嫁いだ橋本豊次郎が小倉に櫓山荘を新築し其処に移り住む。ここで生涯の師となる杉田久女と知り合い、俳句の手ほどきを受ける。
 余談になるが、小倉と言えば松本清張を思い出す。彼は小倉に縁のある文人をテーマにした短編小説を書いていた。43歳のとき、森鴎外の 『小倉日記』 の偽作を題材とした 『或る小倉日記伝』 を書き、芥川賞を受賞した。その翌年、今度はやはり小倉に住んでいた杉田久女をモデルとした短編小説 『菊枕』 を著した。あまり知られていないが、晩年の短編に橋本多佳子をモデルにしたと思われる『花衣』を書いている。この中には羽島悠紀女という名前で多佳子と思われる女流俳人が登場する。多佳子の夫、久女との係わり合い、夫の死後大阪に出て山口誓子に師事するという経歴も、ほとんどそのまま別名の登場人物、シチュエーションを置き換えて語られている。実を言うと真剣に多佳子の作品を見るようになったのは、この短編を読んでからである。

 多佳子の夫が小倉に建てた櫓山荘は、里見、久米正雄、宇野浩二など多くの著名人や文化人が訪れ、小倉の文化サロンとなっていた。彼女が久女と出会ったのも此処で、大胆かつ華麗な多佳子の俳句の原点にもなっている。現在、建物は無いが平成18年に櫓山荘公園として整備され、一般に開放されている。この公園には「櫓山荘跡」の碑が建てられ、二人の句が刻まれている。句は「谺して山ほとゝぎす ほしいまま」(久女) 「乳母車 夏の怒涛に よこむきに」(多佳子)。
 以下に多佳子の当季に因んだ秀句を紹介しておく。

   北庭に下りて得たりし蝸牛
   袋角指触れねども熱きなり
   いたどりの一節の紅に旅曇る
   いそがざるものありや牡丹に雨かかる
   旅の手の夏みかんむきなほ汚る
   花栗に寄りしばかりに香にまみる
   敷かれたるハンカチ心素直に坐す
   死が近し翼を以て蝶降り来
   手にとりて死蝶は軽くなりにけり
   旅了らむ燈下に黒き金魚浮き
   花椎やもとより独りもの言はず

      (写真:左から橋本多佳子、在り氏日の櫓山荘、記念の句碑)






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by 杜の小径  at 18:20 |  日記 |  comment (2)  |   |  page top ↑
Comments

No title

 感動して読ませていただきました。昨年の久女の記事と共に永久保存版にいたします。

 冒頭の句、中七の「花みな白し」に多佳子の性格や生涯まで凝縮されているように感じました。勉強になります。
by 中村紫水 2009/05/29 18:58  URL [ 編集 ]

No title

 紫水さん、お忙しいでしょうに、コメントを有難うございます。

 彼女の作品に季語にご注目下さい。季語が単に季節の象徴でないことがお解りになると思います。
 適切な季語は、作者の9意識、感覚を広く、深く表現します。
by 杜詩夫 2009/05/30 20:34  URL [ 編集 ]
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