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   村瀬杜詩夫さん講演1230   村瀬杜詩夫講演

 17日の福岡市民芸術祭で講演するために、16日に博多へ向かう。テーマは「暮らしの中の詩歌」、時間は1時間半程度ということだった。依頼を受けたとき私の脳裡に閃いたのは、この2月に逝かれたロシア文学者で詩人の内村剛介さんのことだった(内村剛介さんについては2月4日のブログで紹介)。内村さんによると、世界で詩が最も民衆の中で息づいているのはロシアだということだ。日本でジャズやシャンソンのライブが開かれるように、ロシアではバーや喫茶店で詩の朗読会が開かれているという。それは一時的現象、流行ではなく、ロシアの歴史に深く根差している。ロシアの歴史は激しい断絶を繰り返してきた。小公国の乱立からキエフ・ロシアという大公国の出現と崩壊。それに続く240年も続いたタタールのくびき、やがて君臨するロマノフ王朝成立前の17世紀初頭における動乱、ピョートル大帝の改革という大激変、世界で初めての社会主義国家ソビエト連邦の出現。それが崩壊して現在のプーチン体制への大変革―このように歴史が連続性を欠き、そのため安定した統一のとれた多層的な文化を生み出さなかったが、その代わり豊かな口承文芸が民衆の間で代々伝承され、保持された。ブイリーナ(民衆叙事詩)、おとぎ話、伝説、歌謡はヨーロッパで最も洗練された美しさをもち、ロシア文学の民衆的性格の形成に貢献し、ことにロマン派時代以後、ロシア詩に大きな影響を与えた。民衆文化はロシアの近代化・西欧化の大波の底で生きつづけてきた。それが現代のロシア民衆の中に息づいているのである。
 こんなことをプロローグにして、日本の短詩について話題を広げていくつもりだった。ところが一昨夜になって世話役の高原さんから電話があって、聴衆の中には五行歌をやっている人が多いので、あまり「詩」のことは言ってくれるなと注文が入った。私は講演に当たって原稿の類は一切書かない。が、既に頭の中にプロットが出来上がっている。困ったなとは思ったが、彼の誠実な人柄を思うと応じないわけにはいかない。殆ど徹夜で新しいプロットを纏める。

 20日から寺本一川さんが陶芸家とのコラボで書展を開かれるというので、ホテルにチェックインする前に作品を拝見することにした。一川さんとの付き合いは永いが、ご自宅の風雅亭を訪ねるのは初めて。途中で電話を入れると最寄駅まで出迎えて下さった。偶々居合わせて旧知のS氏を交えて、作品を見ながら5時過ぎまで歓談。高原さんが6時にホテルに迎えに来ると言うのでタクシーで帰ろうとしたら、S氏がホテルまで送って下さった。僅か十数分の間だったが殆ど無言。実は、氏は私が訣別した詩の結社の幹部で今や立場が違う。去る者日々に疎しの感慨がよぎる。
 シャワーを浴びて一息吐く間もなくフロントから来客を告げる電話が入る。玄関では高原ご夫妻をはじめ「南の風」の幹部の方々が歓迎会を開いて下さると待ち構えていた。講演のプロットを走り書きしたものを披露して、飲みながら皆さんに内容を“検討”していただく。ホテルまで送って下さった高原夫妻と別れて酔い覚ましのシャワーを浴びていたら、日付けが変わっていた。
 会場は「あいれふ」(市立婦人会館)、殆ど満員の盛況だった。写真家の荒川豊さん、長崎の西部稔さん、旧知の雨夢さんこと飛嶋さんも駆け付けてくださったのは嬉しかった。
 殆ど私の経験に基づいた作詩講座のような話に終始したが、冒頭で詩は作る人の生きざまの具現、「うたびと」とか歌人といった曖昧なものではなく、詩人としての誇りと自覚が必要であることを話す。これだけは譲れない。会場では熱心にメモをとる人も見られ、質問なども活発で話し甲斐のある一日だった。予定の1時間半を超えても質問が続き、会場の掃除係が来たのでやっと終わるというほどで、ゆうに2時間を超える講演会となった。当日のプロットは以下のようなものだった。

◇序論 詩歌とは何か

・詩と詩歌の違い
・世界の詩―特に民衆詩
・世界の詩形―4行詩(クウォートレイン)14行詩(ソネット)など。
・日本の詩歌の系譜―万葉集から「五行歌」まで。
・五行歌は、5行という restriction リストレクションを持つ定型詩
・日本における文学集団の比較―結社誌と同人誌
・結社の堕落―指導を放棄した結社は単なる集金マシン
・ある芸術論―桑原武夫と坂口安吾
・主宰の要件―才能、人格、指導力

◇各論―作詩の工程(村瀬の場合)
 
1)誰の心にも名作は無い―表現は努力と適切な指導で磨かれる。
2)既成服は着ない―クリシェ(常套語句)を避け、自分の言葉で。
3)最初の批評家は自分―自作を客観的に見る。
 4)五行歌は明珍火箸の風鈴―5本(行)のハーモニー。
 5)改行の極意―短歌を5行で書いても五行歌にはならない。
6)作品を声に出して読み、改行の適切さを確かめる。
 7)ホースで水を飛ばす―圧縮と訴求力の関係。
 8)措辞の工夫―推敲の方法論。
 9)必要で十分な表現―添削の方法論
 10)「一抹の希望」は無い―間違い易い言葉に注意。座右に辞書を。
 11)「夜の秋」は夏―知ったかぶりの危険
 12)作品は「ニュース」ではない―前詞や予備知識無しで解る作品を。
 
◇五行歌の「歌会」は間違っている
 1)歌会は消閑・社交の場ではない、ワークショップだ。
 2)点数制は必要悪だと心得る。
 3)互選の結果に拘るのはナンセンス。短歌歌会、句会に学ぶこと。
 4)なぜ、「共感しました」「同感です」としか言えないのか。
 5)一席作品に文法的誤りのある不思議。「選ばなかった人」にも発言を。
 
◇付録
 ・万葉集は民衆歌集ではない。
 ・「本歌取り」と盗作は紙一重。
 ・ロシア民謡と日本の民謡

          (冒頭の写真は光川十洋(荒川豊)氏提供)

追記
 小金井市の「市民まつり」事務局から文化部門への参加を呼びかけられたので、一行詩に手を加えて俳句部門に作品を送っておいた。それが入選したので18日の表彰式に参加してくれとの通知が届いていた。少し疲れていたが、午後から出席する。作品は以下のもの。

  ◇素戔鳴を囲みし野火か彼岸花

  ◇旅鞄中也一冊秋惜しむ

  ◇堂守は高麗人(びと)のすゑ彼岸花

  ◇蛇笏忌や書架に一巻農民詩

  ◇流水に添ひ且つ離(さか)り秋茜

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by 杜の小径  at 01:41 |  日記 |  comment (2)  |   |  page top ↑
Comments

有難うございました

 ありがとうございました。
 私たちの福岡市民芸術祭のために、遠路はるばるお越しいただき、本当にありがとうございました。村瀬さんの機智と含蓄に富んだ、大変貴重なお話をたっぷり聴かせていただき、心から感謝申し上げます。出席された皆さんも、とても喜んでいました。
民衆叙事詩の話も、ぜひ伺いたかったですね。別の機会にぜひお聴かせください。小生が、幅広く詩歌に精通された村瀬さんには、ぜひ、五行歌に限定せず「詩歌」というテーマでお話しいただきたい、とお願いしていた次第でしたので、詩の話をしないでくれと頼んだとあるのは些か行き違いがあったかと思いますが、いずれにしても、実り豊かなお話を伺えて、深い充実感に浸っています。
by 高原伸夫 2009/10/22 13:16  URL [ 編集 ]

No title

ご丁寧なご挨拶で恐縮です。聴衆の方々の反応が良かったのでm話しやすかったです。
 機会がありましたら、またね。
by 杜詩夫 2009/10/23 02:52  URL [ 編集 ]
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