スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。





※ スパム対策の為、暫くの間コメントは承認制にさせていただいております。
  コメントを頂いてから表示までにお時間をいただく場合がございますが、
  何卒ご理解くださいますよう、お願い致します。(管理人)

by 杜の小径  at --:-- |  スポンサー広告 |   |   |  page top ↑

 白馬岳から従いてきた女

               imageCAU5J83P.jpg

 白馬山麓のコッテージは、友人のものである。スキーも冬山もやらない無粋な男で、夏の間だけ執筆用に使っている。近くに倉下の湯という掛け流しの温泉があるし、冷蔵庫や家電一式、薪ストーブまで完備している。長い間風を入れないと家が傷むぞと脅して、冬の間は時どき使ってやっている。もちろん、代償は払わない。庭の手入れをして、夏に咲く花木でも植えておいてやろうと思っている。もう一つ 彼には断れない理由があるのだが、そのことは黙っていてやろう。

               P1270123[1]

 このところ胸がちくちく痛むので肺ガンかもしれないと、精密検査の予約を入れてある。また11日は妻の誕生日なので、墓参に行ってやろうと思い立った。で、先日冷酒を奢ってやった雪女にメールすると、叔父さんがタクシーをやっているから頼んであげる、と言う。それはいいが、東京は行ったことがないので私も一緒に行くと、勝手に決めている。断るとどんな悪さをされるか判らんので、叔父さんと一緒に帰るんだよと念をおしてからしぶしぶ承諾した。

               imageCAOEUPYT.jpg

 ほどなくタクシーが来た。孫悟空の金遁雲のような形をしている。こんな ふわふわしたもので乗れるかと危ぶんだが、中はちゃんとしたシートがあって、乗り心地は悪くない。
さて東京まで幾らかかるか心配になって聞くと、金は貰っても使えないから塩を二升呉れと言う。春先、雪が融けかかったとき体に振り掛けるんだが、信州は塩が採れないので困っているのだそうだ。これらは全て雪女を介しての会話で、運転手の雪男は私には直に気口を利こうとはしなかった。急ぐかと聞くから今日中に着けばいいと答えると、それじゃあ穂高を空から見せてやろうと言う。雪雲タクシーは、ゆっくりと空に舞い上がった。タバコ、吸いたかったどうぞだってよと、女が雪男の言葉を伝えた。へーぇ、人間界じゃあ、どこもかしこも禁煙だぜ。もちろんタクシーの中も…。売っといて吸わせないというのは道理に合わねぇだってよ―女がまた通訳してくれた。この雪男、見かけによらずいい奴かもしれない。

 ねぇ、後ろをご覧よ。女の声に振り返ると、タクシーはいつの間にか夥しい雪雲を引っ張っていた。いま東京は日照りが続いてるでしょ。私たちは雨は運べないから雪を土産に持っていってあげるよ。―でも、東北や上越の人たちは大雪で困ってるぜ。―ありゃぁ、ロシヤと北朝鮮の連中が意地悪してんだよ。私たちゃぁ、あんな悪いことはしないよ。―おまえ、なんで江戸弁で喋るんだ。―おまえさんだって東京ことば遣ってんだろうに。天竜の田舎生まれのクセしてサ。―こいつら、何もかもお見透しだ、油断はならないとは思ったが、悪い感じはなかった。―叔父さん、ちょっと天竜川の方へ回ってあげてよ。―車は雪雲を引き連れたまま、諏訪湖の上空から南へ針路を取り、ゆっくりと天竜川に沿って飛び始めた。私は、問わず語りに故郷の雪女について語り始めていた。

               Suushi_Yama-uba[1]

 雪女は殆ど全国に居ると信じられてきたが、呼び方はユキオンナの他にユキオナゴ、ユキジョロウ、ユキオンバ ユキンバなど地方によってさまざまに異なるようだ。同じように姿形もかなり違っているらしい。
私の生まれた天竜川沿いの地方では雪女をユキオンバと呼び、雪の降る夜に山姥(ヤマンバ)の姿で現われると伝えられている。(写真)時には牛方や馬方、桶屋、小間物屋などの旅職人や振売(売り声を挙げながら干し魚等を売り歩く人)が悪さをされたというが、多くは藤蔓を食べては糸を吐いて織物を手伝ったり、子育てを手伝ったりする優しい老婆だったようだ。
 
         yamanba2_2[1]     yamanba[1]

 私の生まれた佐久間の西渡地区には山姥神社まである。(写真右)その近くには子生石(コウミタワ)」と呼ばれる岩があり、天徳年間に「山姥」がここで三つ子を産み育てたという。石には陣痛で苦しんだ山姥の指痕がくっきり残っている。(写真右)生まれた三人の子が竜頭峰の山の主「竜築房」、神之沢の山の主「白髪童子」、大山祇神社奥の院の「常光房」で、今も地元の人々の信仰を集めている。我が家から近い水窪地区と千代葱で勇名な飯田市千代の大山祇神社には、その伝説が残っている。私が母から聞いた話では、山姥は木の皮を綴ったものを身にまとって怖い顔をしているが優しい老婆で、釜を借りて米を炊ぐと二合の米が釜一杯になったという。特に変わったところもなかったが、縁側に腰掛けたときに床がミリミリと鳴ったそうだ。

 さっきまで饒舌だった雪女が、珍しく神妙な顔で私の話を聞いている。―おい、どうしたんだ。急におとなしくなったじゃないか。―私のお婆ちゃん、つまりこの叔父さんのお母さんがね、むかし諏訪湖にワカサギを獲りに行ったまま行方不明になったんだよ。もしや、そのヤマンバが婆ちゃんじゃないかと思って…―じゃあ、山姥神社へ寄ってみようよ。タクシーを神社の上まで案内すると、二人は揃って掌を合わせていた。

               bc395c02-s[1]

 突然、ケイタイが鳴った。山荘を貸してくれた友人だった。―おい、来週は空いていると言ったよな、一杯やろう。また面白いネタを頼むぞ。―私は昨日からの出来事を掻い摘んで話した。―また、酔ってるな。そんな話が小説のネタになるか。こないだの雪女と冷酒飲んだ詩小説、あのほうが色気があっていい。あれを貰うからな。―駄目よ、あの話はナイショ。終りの方は声をひそめて、女が囁いた。真っ白な雪女の頬がほんのりとあからんでいた。

 スマフォのスイッチを入れると、アナウンサーが叫んでいた。―珍しく東京に雪が降りました。これで一ヶ月続いた東京捌くも解消されるでしょう。
 振り返ると、タクシーが引っ張ってきた雪雲が、いつの間にか空いっぱいに広がって東京の空を覆っていた。―俺たちが引き返したら、すぐ天気になるよ。また、白馬へおいで。  運転手役の山男がはじめて振り向いて、そう言った。(この章、気が向けば…つづく)
スポンサーサイト





※ スパム対策の為、暫くの間コメントは承認制にさせていただいております。
  コメントを頂いてから表示までにお時間をいただく場合がございますが、
  何卒ご理解くださいますよう、お願い致します。(管理人)

by 杜の小径  at 11:47 |  日記 |   |   |  page top ↑
プロフィール

杜の小径

Author:杜の小径

杜のMENU
最近の記事
最近のコメント
月別アーカイブ
カテゴリー
カウンター
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。