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 『渾身の赤』-高樹郷子さんが処女歌集    

浅草 056


 高樹郷子さんが歌集『渾身の赤』を上梓された。遅すぎる処女歌集である。もう、とっくに2,3冊の歌集を出していてもいい実力と実績の持ち主である。と、言っても彼女のことを詳しく知っているわけではない。2,3回歌会で顔を合わせた程度、その後わたしが会を離れたこともあって親しくお話しする機会を逸したままとなった。そんなに数少ない出逢いなのに、彼女と初めて会った日のことは鮮明に覚えている。たしか青葉歌会だったと思う。私が最高点を献じた作品の作者が高樹さんだった。

   川っぷちに出れば
   匂いの違う風
   あ、今
   季節を
   またいだようだ

 たおやかな感性、絶妙な息遣いに驚嘆し、会が終わったとき「もしや短歌をなさっていましたか」と質問した。私は30年短歌をやってきたが、その余りに過剰な叙情性に飽き足らず短歌と決別したばかりだった。そんな私に、繊細な叙情を自由にコントロールした彼女の作品は強い衝撃を与えた。それ以来、彼女の作品を注目してきた私にとって、この歌集は待望の一巻であった。
 五行歌の会には先輩と雖も指導・推敲に類することをしてはいけないという内規がある。百人に百の「想い」があるのだから、そこまで立ち入ることは許されないとしても、表現技術の部分については切磋琢磨が必要。それが無くては文学結社の存在意義は無い、と私は信じている。が、逆説的に言えば、このことが彼女には幸いしたのかもしれない。へんな指導者について弄繰り回されていたら今日の高樹郷子は無かっただろう。

   この世に
   思い残すことがないほど
   燃えてみろ と
   落日は
   渾身の赤だ

 歌集のタイトルとなった作品である。これは落日を詠っているのではない。落暉に仮託して彼女自身を詠っているのである。シャイで謙虚な外貌からは窺い知れない激しい情熱と信念。これこそ本物の詩人の魂であろう。
  
   若葉を
   揺るがす風
   花びらが
   爪先立って
   ころがってくる

   雲は風のまま
   流木は波のまま
   意志持つ者の
   世界の
   狭さ
 
 アト・ランダムに挙げた2首だが、15章360首の全作品に poesy が溢れている。この歌集は良い意味で、10代から関わってきた短歌の遺産であると言えよう。誰の力でもない、彼女自身の天性の資質と努力の結晶である。願わくば雑事に心を労することなく、これを機に詩人として更に「渾身の赤」を燃やして欲しい。その思いを籠めて、敬愛する詩人に拙詩一篇を贈る。

   笑う
   哭く
   歌人の想いを秘めて
   静かに燃える
   『渾身の赤』

       ■歌人=うたびと
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